「自分」がわからなくなるとき(4)~「自分」の中のたくさんの「自分」

これまで、「自分」がわからなくなってしまうのはどうしてなのか、「べき」の異常増殖や、「失敗」の原因に「成功」があったりする、などの例を紹介させていただきました。「私ってこうなの!」と胸をはって言えていた人でも、自分が本当は何を求めていたのか、どうしたいのか、どういう人間なのか、見つめ考え始めると、「自分」というのが多くの矛盾を抱える存在であることをあらためて思い知らされたりするのではないでしょうか。

「自分」との対話をこころがけるようになると、これまで自分では思ってもみなかった自分の心持ちに気づくようになります。どんどん自分の気持ちに対する繊細さが増し、「私ってこんなことを思っていたんだ!」「へぇ、こんな風に感じていたのか。」とはじめのうちこそ、なんだか楽しくわくわくするものですが、そのうち、「仲直りしたいけれど許せない」とか、「これをやったらいいとわかっているけれど、それが絶対いやな自分もいる」など、自分の中の矛盾が噴出して収拾がつかなくなるときもあります。それも、一つや二つでなく、自分の中のさまざまな矛盾する思いが一気に噴出してきたらどうでしょう。これまで「自分」の中で、市民権を得られていなかった「自分」がいっせいに「自分」を主張しはじめると、それは当人にとっては「混乱」以外の何ものでもなく、それこそ、「どうしたいのかわからない!」と叫びたくなるはずです。

自分1:「彼のことが好きで好きでしかたがないのよ。早く結婚したいわぁ。」
自分2:「何言っているの?結婚なんて墓場よ。今みたいに自由におしゃれしたり遊んだりできなくなっちゃうじゃない。」
自分3:「でもさぁ、いい加減、いい年して遊んでるのもね。世間体っつうものがあるじゃない。」
自分1:「だって、彼といつもいっしょにいたいじゃない。朝ごはんとか作ってあげたいし。彼の子供を産みたいし。」
自分2:「いつまでもラブラブでいられるかどうかわからないわよ。釣った魚に餌はやらない、っていうし。だいたい、子供なんて育てる自信ないよ。」
自分3:「子供はめんどうだけど、親に孫を見せなきゃいけないようにも思うなぁ。」

ちょっと覗いて見ただけでも、純粋に彼といっしょにいたい「自分」もいれば、いつまでも子供でいたい「自分」もいるし、世間体を気にする「自分」もいるわけです。これに加え、男性不信の「自分」や生活の経済的な面を心配する現実的な「自分」だって顔を出します。結婚したい「自分」と結婚したくない「自分」、さらに一定の条件が満たされるなら結婚したい「自分」など、多くの思いがあり、なかなか一筋縄ではいかないものです。

英語では、自分がどうしたいのか深く考えることを、soul searching(魂を探す)といいます。「本当に、本当は、どうなの?」と自分に深く問いかけ、「したい」と「する」を一致させる作業だ、と私は理解しています。

ここで大事なのは、自分の中のどの声もちゃんと聴く、ということです。賛成意見、反対意見、部分賛成、部分反対、全ての気持ちを「ある」ものとして受け止めます。「私は、いい人だからこう思ってはいけない」でもなく、「私みたいなちっぽけな人間がそんな大それたことは考えられない」でもなく、です。聴いたうえで、「私は、こういう人でありたい」「こういう生き方がしたい」という基準で、どの「自分」を生きるかを「選択」すればいいのです。

私たちも、集団の中で、自分の意見が少数意見だったとき、「うるさい、黙れ」と無視されるのと「あなたの言うこともわかるけど、でも、今回はこうさせてもらうよ。」と言われるのでは、同じ意見が通らなかった場合でも、ずいぶんと違う気持ちになりますね。「黙れ」と押し込められれば、「じゃあ、勝手にすれば!」という気持ちになるでしょうが、「わかっているけれど、こうさせてね」と頼まれれば協力しないわけでもありません。

あなた自身の中でも、この力学は同じように働きます。無視され、押し込められた感情は、当人にも思いがけない形で、表に出てきたりするのです。「全然思ってもいなかったのに、どうしてあんなことを言ってしまったのかしら?」ってこと、ありませんか?

「自分」の中にあるたくさんの「自分」に「気づいて」「受け止めて」、それから「選択」をする。結局、同じことをするにしても、この一手間があるかないかで、「する」と「したい」が一致するかどうかが決まります。「自分」の中に、あまりにたくさんの「自分」がいるからと言ってうんざりしないでください。その声が聞こえることが、あなたの行動に「魂」をのせるために必要なのかもしれないのですから。

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この記事を書いた人

みずがきひろみのアバター みずがきひろみ 心理カウンセラー

カウンセリングサービス所属心理カウンセラー/神戸メンタルサービス講師・トレーナー。外資系投資会社で20余年株のアナリストとして活躍。自身の離婚問題をきっかけに心理学を学び始め、2008年からカウンセラーとして活動する。13年で8,000件以上の個人カウンセリングを実施、グループカウンセリングや大人数の癒しのワークショップも多数開催している。著書に『母の呪縛をといてありえないほど幸福になる方法』(河出書房新社)がある。

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